蟻と梔子

通勤路のくちなしの花が咲いた。

先週末に一輪咲いているのを発見したので、これは毎日チェックせねば、と思っていたらあっという間に満開。
いや、まだ蕾もたくさん付いているから、これからもっと満開になるのかもしれない。

ただ、くちなしの花ひとつひとつが咲いている時間は短い。
真っ白に咲いて、やがて黄色くなり、茶色くなって枯れていく。
なので、花全部が白くて見頃! ということはあんまりない。時間差で咲いて、常にどれか茶色い。
まだ枯れているものが少ない今が、全体としてはやはり一番の見頃なのかも。

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花の匂いは甘い。
ジャスミンにも似ているけど、ジャスミンの方が少し甘ったるい。くちなしの方がさりげない気がする。
同時に咲く花数が圧倒的に違うからなのかもしれない。

写真を撮ろうとして覗きこんだら、白い花びらの上を蟻が歩いていた。
そういえば、蟻がつきやすいと聞いたことがある。
甘い匂いに惹きつけられるのか。

でもジャスミンの花に蟻がいるのはあまり見たことがないような。
花が細かいから紛れこみやすくて、目立たないだけなのか。


調べたけどよくわからなかった。
なんか、調べれば調べるほどよくわからなくなってきた。

花の蜜など甘いものが好きなのは、そういう種類の蟻で、やつらはどうやら匂いで探しているらしい。
ということは甘い匂いのするくちなしの花に蟻がいるのも当然という気もするし、
でも匂いは腹の足しにはならないわけで
たまたま甘い匂いに誘われて来てみたら、蜜があったよラッキー、という感じなのか。


甘いものが好きな蟻は、甘い匂いも好きなのだろうか。
たとえばその甘い匂いに囲まれて眠るのは幸せだったりするのだろうか。
いい夢を見られたりするのだろうか。むにゃむにゃ、もう食べられないよ、みたいな夢。

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くちなしの花の本物を知らない頃に買った、くちなしの花のブローチがある。
本物の花になんらかの加工を施して、コーティングして固めてある、というような物。
本物の花なので、時間が経つと色が変わってくるんですよ、とお店の方は言った。
ふーん? とよくわからないまま聞いていたが、何年か経って改めてブローチを見てみたら、私の記憶よりだいぶ黄色くなっていた。
黄色!
これが経年変化か。
黄色かあー。
白いほうがよかったなあ、とその時は思った。

あるとき、道を歩いていて、甘い匂いに足を止めた。
そこに咲いている花の形には見覚えがあった。
あのブローチと同じ。
これがくちなしの花、とすぐにわかった。

今、そのブローチは、茶色い。
白から黄色を経て茶色。
なるほど、店員さんが言っていた、時間が経つと色が変わる、とは、そういう意味だったのだ。
本物と同じように変化しますよ、ということだったのだ。

でももう、この花はこれ以上枯れることはない。

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木目にピントが合っている


いつか自分の庭が手に入ったら、本物のくちなしを育ててみたい。
それで私も甘い匂いの夢を見るのだ。



くちなしの白ははかなく多分もう物語なら最後のページ