ひとりでなにが悪い

「ひとりじゃない!
あなたを想っている人は絶対いるよ!」

東武鉄道の車内広告に書いてある。

初めて見たとき、おお…と思った。
飛び込みが全国一多いとかいう噂は聞いていたが、そんな広告を出すほど、多いのか…。
青色の灯りを取り入れたり、非常ベルを設置したり、啓発活動を行っています、という内容の広告なのだけど、
果たしてこの広告にどれほど効果があるのか。

あなたを想っている人がいなければ飛び込んでいいのか。



大学生のころ、一冊の本に出会った。
枡野浩一『ハッピーロンリーウォーリーソング』。

当時は短歌にはまったく興味がなかったのだが、本屋でたまたま見つけて手にとってみた。
1ページに一首、対向ページは単色の写真、というつくり。
買って帰り、ゆっくり読んだ。はー、と息をつきながら、時間をかけて読んだ。


いちばん好きなのがこの歌だ。

だれからも愛されないということの自由気ままを誇りつつ咲け

そのころの私は、就活はうまくいかないし、彼氏は私の友達を好きになっちゃうし、なりたいものもなく、なにを支えにこの先を生きていったらいいのか途方に暮れていた。

でも、それは自由であるのだと。
そんなふうに胸を張って生きていいのだと。

実際には私には愛してくれる親も親友もいて、だれからも、なんてことは決してないのだと知っていた。
それでも、この歌は私を強くした。
強く生きていけると思った。



私が自分でも短歌を作りはじめるのは、そこから5年ほど経ってから、また別のきっかけを受けてなのだけど、
その間もこの歌だけはお守りのように心で呟いていた。
作るようになって、そういえばあれも短歌であった、と改めて気づくほど、私の中になじんでいた言葉。



ひとりじゃない、と君は言うが、
ひとりであることが、愛されることより劣るなんて誰が決めたんだ。

当たり前にそうやって決めつけることが、悲劇を生むんではないか。


そんなことを、電車に揺られながら思った。


ハッピーロンリーウォーリーソング (角川文庫)

ハッピーロンリーウォーリーソング (角川文庫)