母の不用意発言に惑わされる話

私の母はちょっとサザエさんに似ている。
主にうっかりさとか、忘れっぽさ、不用意さが。

そんな母のここ最近のベストオブ不用意発言は「うちは望んで子供ができたわけではないし、欲しいとも思ってなかった」である。
それを長子の私に言っちゃうのだ、あの人は。
思春期だったら家出だ。

この発言はあくまで「結婚してすぐ子供ができたので、欲しい欲しいと思っていたところにできて嬉しい! という感じではなかった」という趣旨に過ぎない。
「子供なんていらなかった」とは言っていない。
言っていないが、そのあたりの判断は聞き手次第。
そこを補わないのが母なのである。
誤解されても文句は言えない。


私は、自分では、ちゃんと愛されて育ったと思っている。
愛されて、というのは大袈裟かもしれないが、少なくとも、ちゃんと育ててもらったと自覚している。

小さい頃、夜中に怖い夢を見て泣いていると、すぐに母が目を覚まして、よしよしと撫でてくれた。
それが嬉しくて、無性に悲しいときや寂しいときにも、怖い夢を見たふりをした。
そのたびに母は必ず撫でてくれた。
かわいいかわいいと甘やかされた記憶はひとつもないが、ちゃんと大切にされていたのだとは思う。

だからもし、母の発言の真意が本当に「子供なんていらなかった」だとしても、別にそれでもいいかと思う。
欲しくもなかった子供を、十月十日も腹の中で温め、産んで、ちゃんと育ててきたのなら、それはむしろすごいことだ。

ただ、もしそうだとするなら、なんだかすいません、という気持ちにはなる。
私の責任ではないので、母にありえた別の人生について云々する気はないけれど、そうやって育ててもらった恩返しは、しっかりしなくてはならない。
欲しくなかったとしても、産んでよかった、と思わせてやりたいとは思う。

とはいえ、どうすればいいか。 
若い頃、周りの友人たちを見ていて、結婚して子供を産むのってやっぱり最大の親孝行なのかなあ、となんとなく感じたり(そしてそれを叶えられないことを申し訳なく思ったり)もしたけれど、母に関してはどうもそのへんは怪しい。
孫を溺愛するというようなタイプではないのだ。
7歳の孫(弟の子供)に対してムキになって喧嘩したりしている。
もちろんかわいがってはいるのだが、むやみに甘やかさず、よく叱り、私や弟が育てられている時と、大して差がないような気がする。

なので、このまま順調に出産まで辿り着いたとしても、それが即、親孝行、とはならなそうなのである。
むしろ海外旅行とか連れて行ったほうが喜ぶのではなかろうか。飛行機も乗ったことのない人だから。


なんていろいろ考えても、本人は親孝行などはなから期待していないのだろう。
子供時代から現在に至るまで、母から何かを期待された覚えも、母の言動をプレッシャーに感じたことも、一度もない。
まあ、私も相当ぼんやりした子供だったので、もしかしたら気づかなかっただけなのかもしれないけど。

ちなみに父からは、結婚する前から、早くかわいい女の子の孫が欲しいなー(男児の孫は二人いるから)、としつこく圧をかけられていた。余談。


話が広がりすぎて主題を見失いかけていたが、つまり母はそういう、不用意な発言で周囲を惑わすところがある、という話。
私までまんまと惑ってしまった。

それによって同じように思い悩んでしまったのが、弟のお嫁さん。
もともと人の言葉を深読みしたりして思い悩みやすい人なのだけど、今回もまんまと惑わされ、こんなこと言われた、と私に相談してきた。
具体的には、「授かり婚で、望んで子供ができたわけではないから、○○(私の弟)は子供をかわいがらないのだ」と言われた、と。
そんなこと言うか?? と半信半疑で母本人に確認すると、えー! と驚いた様子で、そんなこと一言も言ってない、と言う。

その流れで、冒頭の発言が出てきたのだった。
でも、うちは望んで子供ができたわけじゃないって話ならしたよ、と。
いきなり私自身に関係する話。
不意打ちもいいとこだ。
そういうとこだ、そういうとこ。
その不用意さが誤解を招くんだよ。


たぶん私も、自覚していないだけで、その不用意さを受け継いでいるんだろうなあという気がしている。
少なくともうっかりさとか、忘れっぽさは、確実に受け継いでいるので、
とすれば、不用意さも付いてきちゃっていると思う、残念ながら。

気をつけよう。
なるべく、気をつけよう。
なるべくとか言ってしまうあたり、なんかもうだめな気がするけど。



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光の中でのびている白猫