鹿と私の今年の終わり

年の瀬ですね。

七十二候、一昨日から新しい候に入っています。

麋角解、さわしかのつのおつる。鹿の角が生え替わりのために抜け落ちる頃、ということ。

このサワシカというのは奈良や宮島にいる鹿ではなく、北米や北ユーラシアにいるヘラジカのことらしい。日本にはいない。七十二候はもともと中国で生まれたのを日本風にアレンジしたものなので、日本にいない生き物も出てくるらしい。中国にはいる。中国は広い。

 

ヘラジカというものを私が最初に意識したのは、趣味でスウェーデン語の学習をしている時だ。Duolingoという語学学習アプリでスウェーデン語を学んでいると、ごく序盤の、動物の名前を覚えるセクションでヘラジカが登場する。犬や猫や鳥と同列で巨大な鹿が出てくる。すごいな北欧、と思った。

 

ヘラジカの角はオスにしか生えず、手のひらのような形をしている。ヘラのような角だからヘラジカらしい。

秋になるとオスはメスを巡って、この角を突き合わせて戦う。たぶんそれが角の主な役割で、だからそれが終わると抜け落ちる、ということなのだと思う。

が、Wikipediaには捕食者との戦いやオス同士の縄張り争いにも角を使うことがあると書いてある。そうなると冬は丸腰だ。

とはいえ縄張り争いに関してはみんな似たような時期に角が落ちるわけだから、単純に角のない同士の戦いになるし、捕食者に関しても、基本的には足技で戦うらしいので、そんなに問題ないのかもしれない。

 

あの大きな角が落ちるとき、ヘラジカはどんな感覚なのだろう。あれだけの大きさ、重さのものが頭からなくなるというのは。

あれこれ調べる前にイメージしたのは、バトルマンガで重りを外した時みたいな、ここからは手加減なしだぜ感だったのだが、調べたらもう戦いは終わってしまっているので、むしろ鎧兜を脱いだ感じなのかと想像する。

あー、今年も終わったわー。体が軽いわー。

と書いていて気づく。これ、たぶん明日のうちの夫だ。今日で仕事納めの。

 

物理的に身体が軽くなれば、心も軽くなる。髪を切ったあとは晴れやかな気持ちになるし、キャンディーズの「重いコート脱いで出かけませんか」もそういうことだと思う。

だから角を落としたヘラジカたちも、多少の心細さはあれど、きっと軽やかな気分なのではないかなという気がする。肩の荷がおりたというか、頭の荷がおりたというか。

 

ヘラジカにも人間にも、一年の終わり。

新しい角が生えてくるのは次の春だけど、人間の新しい年はもうすぐそこだ。

 

私も家の中で役目を終えた物たちを捨てて、軽くなって一年を終えたいと思います。

皆様も良いお年をお迎えください。

 

髪を切る鋏の音が告げる さあ羽をひろげてどこでもお行き


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余談

ヘラジカについて調べていて今回いちばん衝撃的だったのは、

ヘラジカ | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

ここに書かれている「子ジカは急速に成長し、生後5日で人間よりも速く走ることができるようになる」

どうなってるんだ