魚上氷(めだかのめざめ)

間に合いませんでした。昨日までの七十二候、魚上氷やります。

魚上氷、うおこおりをいずる。水がぬるみ、割れた氷のあいだから魚が跳びはねる頃、とのこと。

跳びはねる、とはまたずいぶんと陽気な感じがする。ヒャッホウである。トビウオのように飛翔するのではなく跳びはねる魚というのはけっこういるようで、体に付いた寄生虫を落とすとか、敵から逃げるとか、餌を捕るためとか、いろいろあるらしい。ほんの少しだけ跳ねて水面に体を現すくらいなら、たぶん私も何度かは見たことがある、気がする。

 

氷が融けて魚が動きだす、というので思い出すのは、母が話してくれたメダカの話だ。

母は信州の山間部で育った。冬は雪の中をみんなで歩いて学校へ行く。池も小川も凍っている。小川にはメダカがいて、それも冬になると氷の中に閉じ込められてしまうが、春になって氷が融けると何食わぬ感じですうっと泳ぎだす、それが不思議だった、という話。

ほんとに? と思う。私の母はちょっと適当なところがあって、言ったことも聞いたこともよく忘れるし、記憶違いなんかも多い。ほんとかな、と思いつつもその話は印象的だった。本当にそうなら、コールドスリープだ。SFの世界だ。メダカのSF。

 

というわけでこの機会に調べてみた。

検索してみると、出てくるのはほとんど個人ブログか知恵袋的なものばかりで、メダカは凍った川や池や水瓶でも越冬するけれど、それは水の底の凍っていないところでじっとして冬をやりすごしているだけ、さすがにメダカ自身が凍ったら死ぬ、という話が主流。しかし中には、完全に氷漬けになっても適切に解凍されれば復活する、という話も出てきた。出てきたがあくまで少数のうえ、知恵袋情報なので信頼性は微妙…母の思い出話と同じくらい微妙。

いや、だけど、「メダカ自身が凍ったら死ぬ」と言っている人は、「氷漬けになったメダカが蘇る」のを見たことがないだけ、とも言える。凍ったら100%死ぬとは限らない、蘇ることだってあるかもしれない。どちらかというと蘇る方を信じたい。少なくとも母は見たと言っているのだし、そっちの方が夢がある。

氷の中で眠って春を待つメダカ。

いつか見てみたい、自然な条件下で、氷の中のメダカが動き出す瞬間。

 

天井の氷は融けて空になる 空を映してふるえる鱗


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