土脉潤起(それから獺祭魚)

土脉潤起、つちのしょううるおいおこる。 雨が降って土が潤いはじめる。二十四節気は雨水。これを書いている今日、関東各地でまた雪が降ったらしいけど、こちらではあられ混じりの雨で、パウダービーズのような白くてごく小さなあられがアスファルトの上をぴょんぴょん跳ねていた。傘の上でしきりに弾む音もにぎやか。

 

脉は脈の俗字、ということは水脈、鉱脈、の流れで土脈ということになるのか。ひとすじに連なる土とはどんなものだろう。それとも、水を含んで潤っていく様子が、土が脈打つよう、ということなのかもしれない。

干し椎茸にせよ、高野豆腐にせよ、乾いたものが再び水を得てふくらむとき、そこには甦りのイメージがある。乾いた土が水を得てふくらめば、植物も育つ。乾いたものたちは水を含んで息を吹き返すのだ。

 

日本の七十二候は中国由来のものを日本に合わせて調整したもので、中国版の七十二候では現在の候は「獺祭魚」となる。かわうそが捕らえた魚を食べるときに目の前に並べる、その様子を獺祭というのだ、と何年か前に飲み屋で友達が教えてくれた。日記を辿ってみたら6年前の夏だった。当時はまだ今のようにメディアで獺祭の名前を目にすることもなくて(私が疎かっただけかもしれない)、その後あちこちで見聞きするたびに彼女を思い出した。透明な酒の入ったグラスと、細い指。

私は彼女のことが大好きで、高校時代からずっと憧れていた。同級生で友達なんだけど、憧れ。本当にすてきな人なの。なので今回は敢えての中国版、かわうそについて調べてみる。

 

かわうその祭りを想像したときに思い浮かぶのは、けっこう大きくて野性味あふれる姿なので、よくテレビで見かけるコツメカワウソがカワウソだということには、調べはじめるまで思い至らなかった。名前にカワウソって入っているのに。あれはカワウソ界の最小種らしい(ちなみにカワウソ亜科ツメナシカワウソ属所属、ツメナシなのにコツメとはこれいかに)。

そして驚いたのが、ラッコがカワウソの一種だということ。カワウソ亜科ラッコ属。そういえば最近読んだ梨木香歩『海うそ』に、海うそとはラッコのことではないか、というくだりがあった。カワウソは川にいるから川うそ、海にいる海うそはラッコ。なんとなく似ているからとしか思っていなかったが、本当にどちらもカワウソだったとは。

 

カワウソは狐や狸のように人を化かすだとか、河童のモデルだとか、いやむしろ河童の一種だとかいわれて、各地の民話で活躍しているらしい。このカワウソの「祭り」はワッショイなフェスティバルではなく、人間が先祖を祀るためにお供え物をする様子に似ているからということなので「祀り」に近い。本当に魚を並べて祭りをするなら、妖怪のように思われても仕方ないと思う。そんな宗教的儀式、目撃したら驚くもの。人が入っているのかと思うもの。 

日本では絶滅したとされているが、実はひっそりと生きている可能性がある、というところも妖怪っぽい。姿を見せないだけで山の中にほそぼそと暮らしている。それっぽいのが目撃されたけど本当にそうか確証がもてない。そういう感じ、とてもいい。

 

かわうそのご先祖様へほそぼそとやっております 春の雪です

 
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春がどんどん増える

 

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昔からジブリ作品ではトトロが一番(か二番めに)好き。日常の中にファンタジーの可能性を感じられるのが良いのです