螳螂生(死ぬまで武器を)

遅れてしまった。一昨日までの七十二候、螳螂生、かまきりしょうず。カマキリが生まれ出る頃。孵化は4月から5月と書いてあるものも多いが、生まれてちょこちょことあちこちに出没しはじめる時期、ということか。

 

カマキリに出会うと、おおっ、と思う。出た、と思う。

子供の頃は団地に住んでいて、近所の子たちと敷地内の芝生でよく遊んでいた。カラスノエンドウの豆を剥いたり、オオバコで引っぱり相撲をしたり、シロツメクサで冠を編んだりなど、植物で遊ぶことが多かったが、生き物で覚えているのはバッタである。バッタはたくさんいた。目の前をぴょんぴょんと飛んでいくバッタを捕まえて、無邪気な残酷さでその脚をもいで遊んだ。そのときは何とも思っていなくて、帰宅して母に話したときに注意されて初めて、悪いことをしたのだと思った。

ということでバッタにはとても馴染みがあるのだが、カマキリはあまり見たことがなかった。初めて見たのはいつだったか、たぶん大人になってからだった気がする。

 

第一印象は、怖い。基本姿勢からしてもう殺る気に満ち満ちている。人間から見たら指でつまめる程度の大きさなのに、おおカマキリ…カマキリこええ…と思ってしまうのは、カマキリと対峙する時、おそらく私の中にバッタがちょっといるのだと思う。蝶ではなくバッタ。子供の頃によく見ていた、草の上で暮らす同じ緑の生き物。

 

先日テレビをつけたら、Eテレの子供向け番組でタガメとカマキリの比較をやっていた。どちらも鎌状の前足で獲物を捕らえるが、タガメの鎌が水平に動くのに対し、カマキリの鎌は上下に動くので、上から振り下ろされるものは捕まえにくい、という話だった(と思う)。この表現で伝わるだろうか。タガメは腕でホールドする形で捕らえるので白刃取りが出来るが、カマキリには白刃取りはできない、ということ。

なのでもし昆虫サイズに小さくなってカマキリに見つかったら、長めの棒を手に入れて面を狙って思い切り振り下ろすといいのだな…と思っていたのだが今あらためて想像してみるとそれでも勝てる気がしない。鎌をクロスして普通に防がれてしまう気がする。だってカマキリ対カマキリの戦いなんて上から振り下ろす同士の対決じゃないか。それで勝敗が決してるのだから上からの攻撃にも対処できてるということではないか。勝てない。

 

カマキリは人間に対しても威嚇してくるのだという。強い。こんな圧倒的な体格差にも怯まないそのメンタルの強さ。その時点で私にはもう勝ち目がないのだと思う。カマキリ、会うとドキドキしてしまうから、なるべく会わずに過ごしたい生き物のひとつである。

 

生まれきて死ぬまで武器を抱いてゆく蟷螂の目にはるか朝焼け


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カマキリってシザーハンズのようでもあるな