腐草為蛍(星にまぎれる)

腐草為蛍、くされたるくさほたるとなる。腐った草が蒸れて蛍となる頃。突然のファンタジーにどきりとする。もちろん実際には草が蛍になるわけではなく、湿った草の影から蛍が出てくるだけなのだけど、昔はそう思われていたとか、いないとか。

語感がとてもいいと思う。くされたるくさほたるとなる。「くされたる」「くさほたる」って真ん中の一文字が違うだけなのだ。さらにそこに「となる」が加わり、「ほたる」に続けて「おあう」の音をたたみかけてくるこの感じ。好き。

(余談のうえ、もしかして以前も書いたかもしれないけど、私が今まで出会った言葉で語感がすばらしいと思ったのは「たかたが肩代わり」だ。分割手数料はジャパネットたかたが肩代わりしてくれる、という意味で会話中にこのフレーズが出てきたとき、めちゃくちゃ興奮したのを覚えている。たかたがかたがわり。何度でも声に出したい。たかたがかたがわり)

 

私にとって蛍の時期は六月の終わりから七月のはじめ、七夕くらいまでなのだが、調べたら本州のほとんどのエリアではもうぼちぼち飛んでいるようだった。桜前線と同じで、蛍も南から徐々に飛びはじめる。私の実家は信州の標高1000m近い山の中にあるので、桜同様に蛍の時期も遅いらしい。

 

ホタルの住む川を取り戻そう、というような取り組みが日本各地で行われているようだけど、実家のある集落でも十数年前(たぶん)から、昔のような蛍の飛ぶ環境づくりに力を入れている。おじさんやおじいさんたち(おばさんも少し)が集まって、蛍の生態を勉強し、水路の整備をし、餌となるカワニナの様子を確認し、幼虫の数を数え、水から上がった日を記録し、そこから50日を計算して飛ぶ日の予測をたてる。それを何年も繰り返し、シーズンになると周辺の宿泊客やマイクロバスの団体客がやってくるくらいには賑わうようになった。しかし数年前に行政の工事が入ったことで環境が変わってカワニナが減り、やる気をなくす人が出たり、高齢化が進んだりで最近はややパワーダウンしているらしい。

 

蛍は幼虫の時を水の中で過ごし、光りながら水から上がり、さなぎになる。土の中で羽化し、低い草の影でしばらく過ごしたあと、ゆらゆらと飛びはじめる。光りながら。

小雨の降るような湿った日のほうが多く飛ぶ。夜7時から8時くらいがいちばん多く飛ぶ。

蛍は眩しいのが苦手なので懐中電灯には赤いセロハンを貼る。車のライトは駐めたらなるべく早く消す。

低いところから飛びはじめた蛍たちは、だんだん、高くのぼっていく。高く高く、木の上まで。高いところを飛んでいる蛍の寿命はもう長くない。

このあたりが、近所の人たちに教えてもらったこと。

 

空へ向かうことが死へ向かうことなのか、死へ向かっているからこそ、より高く飛びたいと思うのか。見たことのない景色を最後に見たいと思うのか。

空に憧れて空を駆けてゆく。荒井由実ひこうき雲」のようだと思う。

 

ほたるほたる心残りをきらめかせ梢を飾る星にまぎれる

 
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蛍の時期になると毎年、ユーミンの「ホタルと流れ星」という曲を口ずさんでしまう。シングルでもなくタイアップもないアルバムの中の一曲で、たぶんもう20年くらい聴いていないのだけど、大好きだったので今でも歌える。実家にCDがあるので久しぶりに聴きたいなあ

 

天国のドア

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